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「萌えるベルギー」
山根悟郎のベルギー音楽事情


イントロダクション〜前書き
山根悟郎のプロフィール
 

 

ブリュッセル通信 山根悟郎

 「萌えるベルギー」山根悟郎のベルギー音楽事情 #007

-第7回:だって空いてるんですから
 
 ベルギーという国は空席に甘い、ゴリゴリに甘い。コンサート会場の話である。例えば東京の場合、コンサート前半の最中に今の席よりいい場所の空席を発見し、休憩になるやいなやそこを目がけて高速移動まっしぐら、という作戦は失敗に終わる可能性が高い。扉の前に立つ係員にがっちりガードされるか、もしくはうまくすり抜けたとしてもアノーお客様と後からやられる時がある。ま、考えてみるに、いい場所に座っている客にしてみれば「わしら高い金出してんねんどドアホ!」という意識が働くのは当然と言えば当然のようであるし、こちらも安いチケットを持っているわけだから強く出ることはためらわれる。

 しかしベルギーの場合はやや事情が違うのだ。例えば私は普段は出来る限り安いカテゴリーの席を買っており、のみならず考え得る方法を駆使して定価よりも安いチケットをゲッツゲッツしているのだが、後半はA席の地帯、S席の界隈に座している場合がある。もしくはホールに到着後会場を見回してみて今日は空きが多いとにらんだ場合、蛮勇奮い始めからそういう場所に座ることすらある。


 いや、成功はするのかもしれないがしかし、そういう行為は人としてどうなのか、と眉をひそめられるかもしれない。それが道徳的な姿かもしれないし、私もかつてはそう思っていた。が、ベルギーの場合そもそもホール側がこの行為を黙認しているようだ。かつてただの一度だけ、あるホールで若い係員に注意されかけたことがあったのだが、その係員の口はなんと、他の老係員により閉じられてしまったのである。別にええやん、空いてるんだしさあ、と言われていたのだ。

 こちらはほっと安心しながら、極めて度量が広いねというか、臨機応変だねというか、あいまいだというか、ゆるいというか、いい加減だなあ、と感動したものである。なお、ブリュッセルのオペラハウスであるモネ劇場なんぞは、休憩のたびに係員が率先して、こっちのいい席が空いてるよ行け行け、と案内さえしてくれるのだ。何という貧乏人にやさしいシステム!!ババーン!!(例えばウィーン国立歌劇場は開演直前まで余っている券を、学生に限り、どの席でも9ユーロだかで売ってくれる。 これは安く良い席に座れる点は同じだが、ベルギーのようにそもそもあいまいなわけではない)

 どうやらこれはベルギー音楽界の常識というわけではなくむしろ国民性なのかも知らぬと私は考えているのだが、それには理由がある。例を挙げると、ベルギー〜フランス間の新幹線(TGVおよびThalys:タリス)の座席指定遵守(じゅんしゅ)も極めていい加減だ。さすがに2等のチケットで1等には座れないが、「全席指定席」がいつもあまり守られていない。ある時など、自分の場所に人が座っていたので、えー、あー、つまりそのー、ボソボソと言った所、だってほらほら、あちこちいっぱい空いてまっせと逆に追い返されてしまった。

 そういうわけであるから現在の私は以下のように、自分にやさしい考え方をしている。すなわち「高いチケットを持っている人は「いい場所」代金に加え、最初からドキドキすることなくそこに座れる、そこを予約している、という安心料も払っているのである。」

written by

山根 悟郎(やまね ごろう)
1977年京都生まれ。立命館中高出身。ヘ音記号すら満足に読めなかった中学3年の夏、音大進学を突如決意し猛ダッシュ。1997年桐朋学園大学ピアノ科入学。2001年卒。2003年秋よりブリュッセルに在住。現在は隣町ルーヴェンのレメンス音楽院に籍を置き、そこでアラン・ワイス氏(アメリカ人)に師事している。近頃は読売新聞欧州版、弦楽雑誌ストリング、あるいはコンサートのプログラム解説などへの執筆業も行っている。
サイトURL:http://www.gorodiary.com/



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