ブリュッセル通信
HOME > ブリュッセル通信> 第5回【エリザベスなのか?エリザベートなのか?】
BACKNUMBER
「萌えるベルギー」
山根悟郎のベルギー音楽事情


イントロダクション〜前書き
山根悟郎のプロフィール
 

 

ブリュッセル通信 山根悟郎

 「萌えるベルギー」山根悟郎のベルギー音楽事情 #005

-第5回:エリザベスなのか?エリザベートなのか?
 
 そもそも世界レベルでの有名人が多くはないベルギーだが、クラシック音楽界には誰がいるだろうかと考えてみた。今生きている人で著名な存在と言えば古楽器奏者の例えばクイケン家の人たち、あるいは指揮者のフィリップ・ヘレヴェッヘ、ジョス・ファン・インマゼール、そして歌手ではバリトンのホセ・ファン・ダムぐらいだろうか。過去に目を向けるなら、イザイ、フランク、ヴュータンという作曲家達がいたし、ヴァイオリニストのアルテュール・グリュミオー、指揮者のアンドレ・クリュイタンスもそうである。またクラシック関係のイベントとして有名なエリザベート王妃国際音楽コンクールというものもある。

 というわけで話がグワーとエリザベートの方角に飛ぶのだ。私は高校生のころ疑問を持っていた。ささいな疑問で恐縮だがそれというのは、なぜこの世界的に非常に著名なコンクールの名前がエリザベス王妃国際ではなく、エリザベート王妃国際なのだろうかという事なのである。その頃はこのコンクールがブリュッセル、つまりベルギーでやっているなんて事はつゆ知らず(むしろ勝手にイギリスの有名なエリザベス女王と結びつけ、ロンドンで行われているのだとばかり思いこんでいた)、変な名前なんだなあ、と思っていた。しかし、かずことか、かずみとか、かずきなんて言う似た名前が日本にあるように、向こうにもエリザベスさんとかエリザベートさんとかがいるのであろう、とまあまあ、この程度に思っていたわけである。

 このエリザベート王妃国際コンクール創設者のエリザベートさんはアルファベットで書くとElisabethであり、普通我々が英米人を指して言うところのエリザベスさんとは一字違い(具体的にはzがsになっている)である。と言っても文字だけを追うと、中高で英語教育しか受けない我々はやはり「エリザベス」と読みたくなるのだが、たとえ同じアルファベットを使用していてもこの国の言語はフランス語+オランダ語であり英語ではないのだから、名前に英語の読みが適用されるわけではない。フランス語読みなのか、オランダ語なのか、まあ多分フランス語っぽいのだろうと私は今もってあいまいに解釈しているが、この国の人はエリザベートなどと発音するらしいのである。どうやらそういうことだったのだ。というわけで答え:エリザベートさんとエリザベスさんとでは、何よりも言語が決定的に違ったのである。ババーン!疑問解決。完。

 しかし、私が現在ピアノを師事しているおちゃらけアメリカ人A氏がその名を口にする時は必ずエリザベス、つまりクイーン・エリザベス・コンペティションなのである(もちろん最後はthである)。それに、彼の生徒の多くはフレミッシュ(オランダ語方言)を話すベルギー人なのだが、私が彼らと英語で会話をしている時も、誰もが一様にクイーン・エリザベス・コンペティションと言う(同じくth)。妙である。日本語ではエリザベートと、より原語に近い表現をしているのに、英語はなぜ自信満々でエリザベスと言っているのだろうか。わがまま米人A氏の振るった横暴の結果なのだろうか、と疑問は再燃するのであった。

A氏  だが、ではなぜ日本語だとエリザベートと言うのかという点もあいまいである。厳密であろうとするのであればエリザベト、もしくはエリザベットゥなどと書くことも可能なのであるが、そうではなくエリザベートと言う理由は何か。実はこれは、単なる結果として「エリザベート」というのが最も広く世間に流布し、より定着しただけなのである(試しにgoogle検索してみるとヒット数はエリザベートが81万7000、エリザベト10万6000)。そしてこのコンクールに関しても一般的に「エリザベート王妃国際」と表現するのが最も通じやすい、というそれだけの理由で呼ぶのであって、固有名詞化してしまっているだけなのである。

 そういうわけであるから本当の所はエリザベスでもエリザベートでもエリザベットでもよいのである。どれも正解、ていうかエリぴょんとかエリッペとかエリンギ王妃とかいわゆるむちゃくちゃでなければ別に何でも良いのである。なにせそもそも地元ベルギー人自身が、普段は愛国心で萌え萌えの彼らが、エリザベスと英語で発音して全く平気のようであるから。

written by

山根 悟郎(やまね ごろう)
1977年京都生まれ。立命館中高出身。ヘ音記号すら満足に読めなかった中学3年の夏、音大進学を突如決意し猛ダッシュ。1997年桐朋学園大学ピアノ科入学。2001年卒。2003年秋よりブリュッセルに在住。現在は隣町ルーヴェンのレメンス音楽院に籍を置き、そこでアラン・ワイス氏(アメリカ人)に師事している。近頃は読売新聞欧州版、弦楽雑誌ストリング、あるいはコンサートのプログラム解説などへの執筆業も行っている。
サイトURL:http://www.gorodiary.com/



↑ページトップへ戻る
最新記事を読む
Borderless Music サイトトップへ戻る

 

Borderless Music Website  Copyright(C)2004 All Rights Reserved.
このサイトは、ボーダレスミュージックと株式会社fonfunが共同で運営しています。