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「萌えるベルギー」
山根悟郎のベルギー音楽事情


イントロダクション〜前書き
山根悟郎のプロフィール
 

 

 「萌えるベルギー」山根悟郎のベルギー音楽事情 #002

-第2回:ラッシュ・アワー
 
 現在のクラシック音楽の演奏会には、日頃の喧噪から離れ静けさを聴きに行く、という趣もある。そうでなくとも、「コンサートに行く」というのはいわゆる現実からは完全に隔絶した行為であることに疑問を持たれる方はおられないであろう。数百人から、多い場合は数千人もの人間が、終始無言で着席したまま音楽を聴く、というのは得難い体験である。ステージ上の大オーケストラが超弱音を弾いている時、あるいは完全に無音になった時、そのような瞬間にはホール全体に独特の緊張感が生じるし、それはまことに心地よい。ごくまれに、たとえば東海林さだお氏のように、その緊張感に耐えられず、スックと立ち上がって「デァー!」と叫びたくなるなどという奇特な方もおられるようだが、いまのところそのような現象を私は体験したことがないし、コンサートの逸話として聞いた事もない。



 しかし私の愛して止まぬあの静寂を脅かすそれよりも強力な、そして近年頻発する恐るべき現象がある。それはみなさんご存じの小さなイノセント・ガイ、すなわち「携帯電話」の着信である。世の中には、空間の静寂を同様に乱すものとしてせき、くしゃみなども挙げられるが、それらと決定的に異なっているのは、あの機械には常に遠慮、恐縮が絶無な点だ(ごくまれに、コンサート中ずっと、ガサガサし放題というとてつもなく傍若無人な人もいるが)。その電話の持ち主がいかに尊敬される偉大な人格者であったとしても、電波を受信すれば一様に無邪気に反応をなさる。パブロフの犬である。その結果、会場がシンとしているところにピーピーピコピコ♪とお鳴りになったりすると、一気に会場全体の気分は醒めてしまう。しかも、友人間で意見は一致するのだが、この機械は必ず、コンサートの一番いいところで鳴るようなのだ。まことにもって困ったものである。
 
 で、そこで、話は私の行ってきたコンサートに及ぶわけである。私は先日ベルギー国立管弦楽団と諏訪内晶子のコンサートに出かけた。だがそこで私が聴いたのは素晴らしい演奏でも見事な集中力でもなく、なんと究極的な携帯電話着信ラッシュだったのである。あちらでりんりん、こちらでりんりん、休憩後も鳴り止まぬ着信に、ついに諏訪内、ミッコ・フランク(指揮者)両氏はツィガーヌの演奏中ピタと動きを止め、じっと客席をにらみ付けたのであった。幸いなことにそれから後は止んだのだが、最後まで私の集中力は上がらず、散々な体験となってしまったのである。


 
 繰り返すが演奏会とは非現実である。そこに乱入する現実(=携帯電話着信音)が与えるダメージは計り知れない。電波ガード装置の設置、あるいはコンサート開始前の場内放送など、対策も考えられているのだが、まずガード装置がそもそも完全に効くものではないし(先日のコンサート会場ボザールにも設置されているようであり、ホール内はいつでも圏外なのだ。)、場内放送にしても、例え聞いて本人は切ったつもりになっていても、実は切れていなかったといううっかりミスが多い。また、私の知っている恐怖機能、それは「電源が切れていても強制的にスイッチオンになって鳴り立てる目覚まし機能」というやつである。まあ夜に目覚ましをかける人も多くはないだろうが、それにしても電源を自分で自動的に入れてしまうとは、あまりにも恐ろしい機能ではないか!

  ちなみに私の場合、ホールに着いたらまず電話の電源を切るように心がけ、さらに演奏が始まるまでに再度、切れているかどうかを確認している。たまに、切り忘れたら困るので、持ってこないようにしようという事にしたりもするが、無意識のうちに鞄の底に入れしまっていたりもするし、持ってきているかも?と突如不安に駆られ、パニックに陥ったりもするので、これはオススメできる解決策ではない。このままではいけない!私としても何とか鮮やかな解決策を考えたい、と熱烈に思っていたりもする。で・・・・・これまでに出たもっとも確実と思われるアイデア:「電池パックを抜いてしまえばいいのではないか?〜面倒だからこそ、それが確実。」

written by

山根 悟郎(やまね ごろう)
1977年京都生まれ。立命館中高出身。ヘ音記号すら満足に読めなかった中学3年の夏、音大進学を突如決意し猛ダッシュ。1997年桐朋学園大学ピアノ科入学。2001年卒。2003年秋よりブリュッセルに在住。現在は隣町ルーヴェンのレメンス音楽院に籍を置き、そこでアラン・ワイス氏(アメリカ人)に師事している。近頃は読売新聞欧州版、弦楽雑誌ストリング、あるいはコンサートのプログラム解説などへの執筆業も行っている。
サイトURL:http://www.gorodiary.com/



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