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「萌えるベルギー」
山根悟郎のベルギー音楽事情


イントロダクション〜前書き
山根悟郎のプロフィール
 

 

 「萌えるベルギー」山根悟郎のベルギー音楽事情 #001

-第1回:流しミュージシャンなあいつら
 
 ブリュッセルで地下鉄や路面電車に乗っていてたまに遭遇するのは、いわゆる流しのミュージシャンという人たちである。果たして彼らはしかるべき当局からしかるべく許可を得てやっているのだろうか、ということは分からないが、けっこう出会う。人が素通りしてしまう街頭などとは違い、ともかくドアが開くまでは強制的に聞いてもらえるわけだから、効率がいいといえば良いのかもしれない。腕前は人によりまちまちである。中にはレパートリーは一曲だけなのか、いつ会っても同じ曲を歌っている人もいる。ともかく一曲、あるいは数曲を一つの車両で披露した後、えー、どうもどうも、聴いてくださって感謝、とか言いつつ車両内を端から端まで歩いて寄付?を募るのだ。元来けちに出来ている私は、今の今まで一度もあげたことがないのだが、見ていると意外にも多くの人(各車両5人程度)が小銭をあげているようである。



 日本では歌う酔っぱらい以外まず絶対に出会わない車両ミュージックだが、私も今やすっかり慣れっこになっているので、初めてヨーロッパに来たときのように、わっ!歌ってる、歌ったはるで、みんな見てみーあれ!いやー勇気あるわあの人!すごいすごいウキウキー!などと顔を赤くしてサルのように興奮したりはしない。そしてもし仮に誰かが歌い始めても、あるいは既に誰かが大声を張り上げているような車両に乗り込んだとしても、すぐには反応を示さないのだ。できるだけ無表情を装い、しかるべき時間が経過した後・・・・目立たぬようにさりげなくその姿を確認し・・・・やがて鷹揚(おうよう)に窓の外に視線を移すのである・・・・なんにせよ「通」であるためには大変な労力が必要なのだね、この場合の私は「車両ミュージックの正しい聴き方」において通なのであるがだがしかし「通人」という存在はある意味においていわば「純粋さを失ったホモサピエンス」でありまことにさみしい存在であるとは定義できるようだ、などと考えながら(ウソ)。

 閑話休題。この車両ミュージック、だいたいが速いテンポのシャンソンか、そうでなくとも明るい雰囲気の曲である。曲が元気な方が聴いている方も景気がよくならあな、財布のひもだってゆるくならあな、ってなもんである。それにそもそもテンポが遅かったり、音が低かったりすると騒音にかき消されてしまってよく聞こえない。そういうわけであるから、絶望の雰囲気あふれる、美空ひばりが歌います「悲しい酒」、あるいは南こうせつ一世一代の傑作「神田川」といったナンバーは絶対に聴けない。

 楽器編成は様々である。1人でやっているものから、私は4人組(歌+タンバリン、ギター、太鼓、お金を集めて回る人)までは見たことがある。しかし最も多いと思われるのがアコーディオンのみの演奏だ。もちろん立ったまま、楽器をだっこするような状態でひたすら演奏を続ける彼らである。果たして腰が壊れてしまいわないのだろうかと余計な心配もしてしまうのだが、みな元気いっぱい笑顔一杯である。どちらかといえば楽器の方がかなりくたびれており、鍵盤がめくれていたり、本体が派手にガムテープで修理されていたりもする。


 そして意外に多いのがカラオケマシーン持参でという人たちである。重そうな機械をカートに乗せ、時にはマイク付きで歌ったり、あるいは歌ではなくサックスの演奏を始めたりする人もいる。いちいちコロコロと転がすのは大変なのだろうが、この場合なぜか、こちらの感動も薄いのが不思議だ。機械の力を借りているからだろうか、思わず減点してしまっている自分がいる。彼ら自身も気にしているのか、やや恥ずかしそうであり、声もいささか小さい。それに加えて乗客の視線も、けっ、マシンかよ、とややきつめなのは気の毒である。

 さて、一昨日路面電車に乗ったところ、ギターを抱えてカンツォーネを歌うお兄さんがいた。なるほどなるほど、歌うんだねと「通」の私は非感情的に思い、そそくさと車両の隅に立ち、文庫本を読み出したのである。だから特別にその歌を聴いていたわけではなかったのだが、突然、「ひょっとしてこれはアレか、彼は凄い複雑な、モダーンなコードを使っているのではないか?」という思いにとらわれた。私はついに、天才流しのミュージシャンに遭遇したのか!?と思い、やや興奮気味に意識を音に集中してみたら・・・・ただ単にチューニングが合っていなくていつも妙な音が聞こえてくるだけなのであった。ドテ。

written by

山根 悟郎(やまね ごろう)
1977年京都生まれ。立命館中高出身。ヘ音記号すら満足に読めなかった中学3年の夏、音大進学を突如決意し猛ダッシュ。1997年桐朋学園大学ピアノ科入学。2001年卒。2003年秋よりブリュッセルに在住。現在は隣町ルーヴェンのレメンス音楽院に籍を置き、そこでアラン・ワイス氏(アメリカ人)に師事している。近頃は読売新聞欧州版、弦楽雑誌ストリング、あるいはコンサートのプログラム解説などへの執筆業も行っている。
サイトURL:http://www.gorodiary.com/



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